英語翻訳者のケイタです。
フリーランスで12年、訳書が7冊ほどあります。
中学生の頃、指示代名詞のitを初めて習ったとき、かなーり違和感を覚えました。
長年の謎「it」
まずは、「it=それ」って教わりましたよね。
文法書でitを引くと「前に出た特定のものを表す」とあります。(『表現のためのロイヤル英文法』)
そこまではまだいいんです。そうか、itは「それ」なのか、と。
ところが授業が進んで、頭の中に「it=それ」という回路ができた頃に、急にこんなことを言われます。
このitは天気のitといって、「それ」じゃないぞー。
こっちは時間のitといって、これも「それ」じゃないぞー。
「it=それ」と覚えてしまっているので、「It is raining.」とみると、どうしても「それは雨が降っています」って浮かんできちゃうんです。
なんで文頭にitなんてつけるの?
英語って……なんか変ー。
……というのが、当時のぼくの困惑でした。
でも、「それ」じゃないと言われたら、そう覚えるしかありませんよね。
どこか釈然としないまま学校を出て、翻訳の仕事をはじめましたが、どうもいまいち、itに自信が持てませんでした。
「it」を一言で言うと…
それが2年ほど前、中学の授業から20年ほどたったある日、ついに、この疑問を解消してくれる定義に出会いました!
それが、こちら。
it = 文中でいま問題になっていること
《参考》名翻訳家・柴田耕太朗氏のこちらの本で知りました。まさにプロのための英文読解・文法解説書です。
ぼくは2年ほど前に読み、やっとitが腑に落ちました。以来、いろんな英文で試してみましたが、ほぼこの定義で読めると思います。
これひとつ覚えておけばいいので、便利ですよ!
では、もう少しわかりやすく説明しますね。
普通のit
まずは普通のit。「それ」って覚えてるやつです。
I can’t find today’s newspaper. Do you know where it is?
きょうの新聞が見あたらないんだ。どこか知ってる?
(出典は『表現のためのロイヤル英文法』。訳は変えています)
このitを、「それ」と訳して読まずに、「文中で問題になっていること」と考えてみてください。
前の文で「today’s newspaper」が話題になったので、それがitです。
こんなふうに、「それ」とだけ覚えていたitは、「文中で問題になっていること」と考えれば何を指しているかもわかりやすいですし、応用が利きます。
ちなみに上の訳ではitを「それ」ともなんとも訳していません。
日本語ではわかりきったことは省略しますよね。だからitは日本語にすると消えることがままあります。
天気のit
それではいよいよ、問題の天気のit・時間のit を見てみましょう。
では天気のitから。
Is it still raining?
まだ雨は降ってる?
くどいようですが、このitは「それ」じゃありません。「文中で問題になっていること」です。
つまり、話し手と聞き手のあいだで話題になっているもの。
日本語でも日常、天気の話をするときがありますよね。そういうときって、「暑いですね」とかって言いますが、そのまえに(ところで天気ですが……)みたいな含みがありませんか。
きょうは暑いなーと、相手も思っているだろうと想定できる場面で、「(ところで天気のことですが、)暑いですね」みたいに言うわけで、日本語ではそこはわかりきっているので「天気は」とは言いません。
しかし英語では、こういうところもきっちり主語を立てます。
主語を省略しにくい言語なんです。
主語は立てるけれども、毎回「The weather is…」とわざわざ言うほどのことでもない。itだけで、お互いに十分にわかります。
どうでしょう。なんとなくわかりますか?
そう言われれば日本語でも、「天気は暑いですね」とは言わないもんね。
時間のit
もう一つ、時間のit を見てみましょう。
It‘s 4 o’clock.
4時です。
これも「天気のit」と同じで、「文中で問題になっていること」あるいは「話題になっていること」です。
「(えーと時間のことだけど…)4時です」って感じ。
日本語の感覚なら、itなんて言わなくてよさそうな気がしますけどね。
意味は通じるでしょうが、英語の感覚では、なにか主語を立てないと落ち着かないんでしょうね。
ただし、ラフな日常会話、たとえば友だち同士のくだけた会話とかでは、省略しちゃうこともあるかもしれません。ぼくはリアルな英会話事情に疎いので、想像ですが。
逆に、学術論文など、とことん厳密さにこだわる文章では「The weather is…」とハッキリ書くこともあると思います。
どちらにしても、標準的な言い方は「It’s…」です。
「文中で問題になっていること」と覚えれば、天気でも時間でも大丈夫ですよ!
ちなみに、上の2つの英文はどちらも『ロングマン英和辞典』からとりました。口語英語を学ぶのにぴったりの辞書でで、ぼくも愛用しています。
こんな風にぼくは、<そもそも>が割と気になる性格で、「英語ではこういう言い方をします。」と言われても、そこからしつこく考えちゃいます。
このブログではほかにも、こういう話を書いていきますので、よろしければまた読んで下さい。それではまた。