あの絵本の原作は?

『すてきな三にんぐみ』原作の英語は?【子育て中の翻訳者が覗いてみた】

 

『すてきな三にんぐみ』という絵本を知っていますか?
黒マントの三人の男が表紙の、いかにもこわ~~い雰囲気を出している、あの絵本です。

知ってる知ってるー。でっかい赤い斧、こわいよね!

原作は、フランス生まれの児童文学作家、トミー・アンゲラー(Tomi Ungerer)さんです。翻訳したのは、日本の児童文学作家、今江祥智(いまえ よしとも)さん。

原文が気になる!

この絵本、とにかく文章が素敵なんです。
読み手を物語にぐっと引き込む力があるというか。

翻訳ものだと知って気になるのが、原文がどうで、どう翻訳されているのか

3児子育て中の翻訳者である不肖・ケイタが、原作と翻訳を比べてみました。
ぼくの拙訳も比較のために載せますので、今江祥智さんの翻訳の素晴らしさをぜひ感じて下さい!

軽く自己紹介を。
ケイタ。フリーランスで12年の英語翻訳者。訳書7冊ほど。大人向けの翻訳が中心ですが、子供向けの本も訳したい。好きな児童文学作家はロアルド・ダール、ルイス・サッカー。

*この絵本を読んだことのない人、忘れちゃったという人は、こちらであらすじが読めます→(絵本ナビ)

出だしでノックアウト!「あらわれでたのは」

この絵本で何より印象的なのは、出だしの言葉。

あらわれでたのは、
くろマントに、 くろい ぼうしの さんにんぐみ

この「あらわれでたのは、」っていうのがすごいなあと思っていたんです。いかにも暗闇の中からぬうっと突然現れ出る感じで。
低い声で雰囲気たっぷりに読みたくなりますよね。

さて原作をみると、(ちなみに原作は英語です)

Once upon a time there were three fierce robbers.

あれ、意外とふつうの言い方!?

「Once upon a time」は昔話の書き出しの常套句で「昔々あるところに」ですね。

原文と今江祥智さんの訳(以下「今江訳」)とぼくの直訳を並べてみます。

Once upon a time there were three fierce robbers.

今江訳) あらわれでたのは、
     くろマントに、 くろい ぼうしの さんにんぐみ

ケイタ訳) むかしむかしあるところに
      さんにんの きょうぼうな おいはぎ がいました

なんか愕然としちゃいますね。今江訳で読める幸せを噛みしめます。

絶妙な語り口「さて、えものはおらんかな……」

では、ぼくがとくに気に入っている言葉を中心に、原作と比べていきます!

In the dark of night they walked the roads,
searching for victims.

今江訳) よるになったら やまを おり、
     さて、えものは おらんかな……。

ケイタ訳) よるのやみのなか さんにんは かいどうをあるきまわり
      えものをさがしました。

注目してほしいのは今江訳の最後、「さて、えものは おらんかな……。
原作は「searching for victims」で、直訳すると「えものをさがしました」。まあ、普通の言い方です。淡々とした書きぶりで、子供に語りかける感じはあまりしません。

ここに限らず、原作は全体に、淡々と語る印象です。日本語版を読んだ後だと、温度差を感じるほど。その分、こわさが増しています。

日本語版の今江訳は、いかにも絵本らしく、読者に語りかける調子です。もともと絵がこわいので、このくらいやさしい語り口にしたのかもしれません。この絶妙なバランス!

表情にぴったり「だいじにかかえ」

ではお次。たまたま襲った馬車に、小さな女の子(ティファニーちゃん)を見つけた3人組。

the thieves bundled her in a warm cape and carried her away.

今江訳) ティファニーちゃんを だいじに かかえ、 かくれがへ……。

ケイタ訳) ティファニーちゃんを あたたかい ケープに くるんで
      つれてかえりました……。

今江訳がほんっとにいいのはこの「だいじにかかえ」というところ。
挿絵の、男の表情にピッタリだと思いませんか?
ほかのページでも、今江訳の言葉は、挿絵の人物の表情にピッタリなんです。

うんうん。
なんかさ、はじめから日本語で書いたみたいじゃない?

そのとおり! 今江訳は、アンゲラーの原文とは、リズムや雰囲気がちがいます。
今江さんは、英語の調子を、形だけ日本語に移すんじゃなく、日本の絵本の言葉にちゃんと変えているんです。
「形」ではなく「味わい」を再現している。
これこそ翻訳だと思います。
ぼくも今江さんの爪の垢を煎じて飲ませていただきます!

心あたたまる「みんなで いっしょに くらすんだ」

どんどん行きましょう!

They bought a beautiful castle where all of them could live.

今江訳) そして さんにんぐみは すてきな おしろを かった。
     みんなで いっしょに くらすんだ。

ケイタ訳) さんにんぐみは りっぱな おしろを かった。
      みんなで すめるような おしろを。

今江訳の「みんなで いっしょに くらすんだ。」がたまりませんよね。原作の英語は、もう少し説明的で、子供に語りかける感じはしません。

「みんなで いっしょに くらすんだ。」って聞いたら、ワクワクするし、「ああよかったなあ」ってホッとしますよね。

個人的には、原作以上に、今江訳が好きです。

いよいよラストシーンへ

These people, in memory of their kind foster fathers, built three tall, high-roofed towers. One for each of the three robbers.

今江訳) そして みっつの たかい とうを たてた。
     みんなの すてきな さんにんぐみを わすれないため。
     ほら ごらん。まるで さんにんに そっくりだ。

ケイタ訳) むらのひとたちは みんなをひきとりそだててくれた
      やさしい ちちおやをわすれないために、
      せのたかい ぼうしをかぶったような とうを たてた。
      ひとりにひとつ さんにんのどろぼうが いまも そこにいるみたいに。

今江訳の「みんなの すてきな さんにんぐみを わすれないため。」は、この絵本でもいちばん印象深い言葉のひとつです。
ところが英語をみると、「in memory of their kind foster fathers, 」。
「foster fathers」といえば、養父、里親です。
現実的で、おとぎばなしっぽくないですよね。「みんなの すてきな さんにんぐみ」とは語感がちがいます。

もしかしたらアンゲラーは、完全なおとぎ話ではなく、もっと現実的に、孤児や捨て子がいるという状況を描きたかったのかも。
英語版でこれを読んだ子は、おしまいに、「これはほんとに絵本の世界だけなのかな?」と感じるかもしれません。

≪豆知識≫

ただーし、これにはひとつ後日談(?)があります。今回の記事を書くにあたって、Youtubeで英語の朗読動画やアニメーションを見てみました。すると、「in memory of their kind foster fathers」のくだりがごっそり消されている版がある!

たとえば……(3:20くらい↓)

ぼくの記事で使用したのは1987年刊の第二版ですが、もしや最近の版では、「in memory of their kind foster fathers」の一節が消されているんでしょうか? 動画だけではなんとも言えませんが、動画の版の出版社はPHAIDONで、ぼくのはAthenuemなので、出版社によって対応がちがう可能性もあります。

今江さんが翻訳した元のテキスト(おそらく1962年初版)にはもちろん、「in memory of their kind foster fathers」の一節があったわけですが、もしも削られていたら、「みんなの すてきな さんにんぐみを わすれないため。」の名訳もなかったことに……。

いやいや、やっぱりこの絵本はこの一節がないと!

タイトルにも注目!

ちなみに、本書の原題『The Three Robbers』を、今江さんは『すてきな三にんぐみ』と訳しています。英語版と日本語版の表紙を比べてみて下さい。

 

英語版は『The Three Robbers』とだけ書いてあって、この3人が悪者なのか、何者なのかわかりません。表紙だけ見た感じだと、ちょっと不穏ですよね…。
一方、日本版は絵は同じですが、タイトルで『すてきな三にんぐみ』といっているので、少し安心して読みはじめられます。

この辺はちょっと微妙なところで、英語の原作をよむと、この三人組がほんとうに「すてき」なのか、読む人によって解釈がわかれるかもしれません。三人組の正体は最後まで明かされないので、「子供は助けてくれたけどやっぱりこわいなあ」って思う人もいるかも。

でも、ぼくは最初から今江訳で読んだので、「すてきな三にんぐみ」だと思っています。もしも、今江さんが、あるいは他の訳者がへんに原作に忠実に淡々と訳していたら、この絵本、こんなに好きにはならなかった気がします。

余談ですが、英語版では3人のことを「the robbers」とか「the thieves」と何度も呼ぶのに対して、今江訳では「さんにん」、「さんにんぐみ」、はたまた「おじさんたち」と呼んでいて、「どろぼう」という言葉はなんと最初のページに1回出てきたきりです。意図的なんでしょうか…? もし「どろぼうたち」と何回も忠実に訳出していたら、かなり印象が違うんじゃないでしょうか。

絵はこわいけど、文章はこわくない、この絶妙なバランスのおかげで、何度も読み返したくなるんです。

この夏、お子さんと読んでみてはいかがでしょうか。

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